アメリカ不動産市場の振り返りと今後の動向 ~調整局面の米住宅市場における日本投資家の取るべき戦略~
更新日:6月9日
今回は連載の最終回、「調整局面にある米国不動産市場で日本投資家の取るべき戦略」について、当社の考えを解説します。
まず最初に前回までのおさらいをします。2022年前半までは米金利が低かったことを背景に住宅購入が増え、またコロナによるサプライチェーンの混乱などにより原料価格も高騰、これらを背景に米国の不動産価格は記録的な上昇が続きました。
しかし昨年後半より市況は調整局面に入りました。主な背景は金利、住宅ローン金利の上昇です。ただ当社の考えとしては、労働市場や米国の個人や企業のバランスシートは比較的健全であることから、15年ほど前の世界金融危機の時のような市況の急落は起こらないだろうと前回解説しました。
まだまだ低い米住宅の在庫水準
前回あまりお話できなかったことですが、米国の住宅在庫は依然としてかなりその水準が低いことは特筆に値します。市況のクラッシュが起こらずに急落もないとすると、やはり一番に着目しなければいけないことは需給およびそのバランスです。
需要については正直強くなるとは思えません。米経済が想定より案外力強いことは2023年に入り発表された各指標が表すところですが、そうなると米国の利下げは遠のく可能性が高く、しばらくいまの高い金利水準が続くのであれば新たに家を買おうという人は勿論減り、直ぐには需要は戻らないだろうと推測されます。もちろん、これまで解説の通り家を新たに買わずともどこかに皆住まなければなりませんので、賃貸需要が増え賃料が上昇する、という投資家にとっては有難い側面も看過できませんが、さしあたり物件価格そのものについては需要面は弱い状況が続くでしょう。しかし供給については先に書いた通り引き続きタイトです。低い金利の間に購入あるいは投資した人はそのままの状態にとどまり、新築の住宅建設も23年1月に再び減少し依然として住宅在庫は逼迫しています。
※1 月の一戸建て住宅着工件数は 4.3% 減少、建築許可件数は前月比 1.8% 減少 出典:the U.S. Census Bureau and the U.S. Department of Housing and Urban Development (HUD).
需要だけに目が行きがちですが、こうして供給面にも目を向けると案外、需給のバランスは極端には緩くはならないだろうという事が理解できます。もちろん、エリアによっては低金利のときに買いが集まりすぎて過熱感あり、だからこそ調整局面の文字通り市況が「調整」されて需給にそくした市況に戻ることはありますが、供給の逼迫は市況を下支えし、特にまだ割安感のあるエリア(わかりやすい指標で当社がよく見るものに物件価格がそのエリアの平均所得の何倍かという所得倍率があります)については、需給バランスがタイトであれば引き続き市況は高騰はせずとも下落もせず横ばいに推移するかやや上昇を続けるでしょう。
日本投資家のとるべき戦略
以上、アメリカの住宅市況は急落せず、むしろエリアによっては横ばいに推移するかやや上昇するという当社の見立てを説明しましたが、そのような見立てに基づいたとき、日本投資家の取るべき戦略とはなんでしょうか?
それは結論、投資を積極的に検討する、というものです。これはあくまで当社の考えですが、営業トーク的な意味合いはありません。なぜわざわざ、逆張り戦略のように、いま積極的に検討するべきなのか、という点には2つ理由があります。
1つは、いま当社が日本投資家の皆様を相手にご説明をしているためです。アメリカ国内で住宅ローンを組むのであれば、正直金利が高すぎていまではありません。ただ物件価格の半分など、一部を日本の低い金利で融資を受けられ、高い金利の市場へ投資することは理にかなっています。金利が高くて需要が弱いアメリカでは、いま価格交渉の幅が非常に広がっています。つい1年前まではリストされている価格にさらに上乗せしなければ変えなかったものが、いまは1百万円や2百万円分、値引いて成約というケースが多いです。特に、日本で、融資も受けられず、キャッシュバイヤーの方がいらっしゃれば、そのバーゲンパワーは最強で、売主側も不透明な状況下で出来る限り早く売りたい中、ローンなしでキャッシュで投資される日本投資家にはがっつり値引きをして成約、というケースが増えています。
ただ、為替については、掛目50%で円建ての融資を受けられた場合、返済は当然円で行いますので、オールキャッシュで買う場合よりも為替に関するリスクを孕んでいることは認識しなければなりません。
次に2つ目ですが、これは前にも申し上げましたが、賃料が引き続き上昇している為です。購入より賃貸を選ぶ実需が増えているという事は、賃料がさらに上昇しやすい状況にあるということです。一時よりはその上昇幅は落ち着きましたが、そもそもアメリカでは賃料上昇は当たり前で、いまも特に賃金が上がっておりますので、タイムラグをもって今後さらに賃料が上昇を続けるものと考えられます。
ただ、この2つ目、極論になりますが、正常なインフレを目指し続けるアメリカで、人口が上昇を続けるアメリカで、賃料が大きく下落するということはあり得ず、これは中古についてもですので、賃料が上昇しているからいま投資すべき、という話はややおかしな話です。中長期で考えれば経済も人口も成長を続ける成長大国アメリカ、そんなアメリカに不透明な時こそミドルリスクミドルリターンの不動産を持つ、ということは既にその時点でグローバルレベルで景気のボラティリティをヘッジしている事にもなると当社は考えます。これが日本の不動産だけでは、輸入の多い日本、国力および人口が低下・減少しはじめた日本ですので、ヘッジ力としては弱く、その中に世界経済を牽引する国の資産を持つという事がすでに戦略としてタイミングを選ばない、と当社は考えています。
身もふたもない結論となり恐縮ですが、最後に書いたことをご理解いただけない方でも、上にあげた二つの理由は列記とした事実としてありますので、米国外の日本投資家にとっての投資タイミングとしてはむしろ今は好機であること、ご理解いただければと思います。
以上、連載「アメリカ不動産市場の振り返りと今後の動向 」でした。