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アメリカ不動産市場の振り返りと今後の動向 ~2023年の予測~

更新日:2023年6月9日


前回の振り返りでは、コロナ禍の経済活動停滞に端を発した低金利と建設遅延によって米国住宅市況が高騰したと説明しました。では今回、利上げが続く米国では今後、短期的にはどのように住宅用不動産市況が推移するのかについて当社の考えを解説します。


アメリカの不動産市場は2023年どう動くのか?

まず結論から申し上げますと、非常に不透明で読みづらい市況ですが世界金融危機のときのようなクラッシュはせず、またコロナ禍の時ように高騰もせずに、小幅の下落や上昇を繰り返してほぼ横ばいに推移するだろうというのが当社の見方です。金利上昇により市況は調整局面にありますが、もう少し中期的な目線に立てばやはり需給が緩いかタイトか、という点に着目すべきと当社は考えており、その点いまだ供給が少なく需給はタイトという状況は変わっておりません。米国の労働市場や、個人および企業のバランスシートもリーマンショック時と比べはるかに健全ですので、金利上昇だけを背景に大きく下落することは考えづらく、むしろ買い手優位の市場である今は値下げ交渉がしやすいタイミングでもありますので、中長期目線で不動産投資を考える投資家にとって、仕入れるタイミングとしては非常に良い、と考えています。

それでは詳しくみていきます。


アメリカ不動産市場の短期予測にコンセンサスはない

まず直近の動向については、皆さまご認識の通り米金利は昨年後半以降、大幅に上昇しており住宅ローン金利も7%を超えた昨年末と比べるとやや落ち着きましたが、まだ記録的に高い水準にあります。そのため実需は中々いま買うという選択は取りづらく、住宅市況は下落しました。一方で、住宅用ですので、当然ながら人口が減らない限りは実需はどこかには住まなければいけません。したがって賃貸を選ぶ人が増え賃料相場も急上昇しました。


では2023年の短期でアメリカの住宅市況は今後どう動くのか、という点についてですが、各金融機関や調査会社、不動産会社の予測はまちまちでコンセンサスはありません。オンラインの不動産データベースの大手Zillowは、2022年11月から23年11月の間に多くのエリアで住宅価格が引き続き上昇するか横ばいに推移すると予測、また住宅ローンを扱う金融機関等に不動産に関するデータを提供するCoreLogic社や全米リアルター協会(通称NAR/アメリカ最大の不動産業者団体)も上昇するとの予測を発表している一方、ゴールドマンサックスやウェルズファーゴなどの大手金融機関はやや下落するとの悲観的な見方を発表しています。実際は、中古物件なのか新築なのか、あるいはエリアによってより詳細な分析結果がありますがここでは割愛し、各社が全米を俯瞰して短期の市場動向をどう予測しているか、について共有しました。


では、コンセンサスがない以上、上記のような各社の短期見立てをそのまま鵜呑みには出来ませんので、投資家目線でどう考える“べきか”という点について考えてみると、リーマンショックの時のような急落・クラッシュが起こるかどうかが重要です。これが起こってしまっては回復まで数年はかかりますので、次回の③で解説する「日本投資家が今こそ買い時である理由」や「不透明な状況下でのエリア・物件選定基準」も無意味になってしまいます。また、クラッシュが起こるかどうかを考えることはすなわち、米国経済や米国の不動産市場が世界経済危機・リーマンショックのときのような、需給バランスに基づいた実態を伴わない債務超過・過剰レバレッジが家計や金融機関や企業に発生しているかを確認することでもあります。下で詳しく見ていきます。

アメリカ不動産市場のクラッシュはおこるのか?


結論、これは起こらないと当社は考えます。ポストコロナの景気後退懸念が騒がれ始めた昨年以降すでに使い古された指標ですが、いま米経済や米国不動産市場のファンダメンタルズを考えるときに特に着目すべきポイントは個人や企業のバランスシートと労働市場の健全性です。


まず、個人や企業のバランスシートについて。FRBが毎四半期の家計の資産・負債・純資産の推移などを発表しますが、この推移を追うとアメリカの家計の負債はリーマンショック時と比べると格段に少なく、住宅の持ち主の純資産は依然としてプラスですので、リーマンショック時にクラッシュの要因の一つとなった住宅オーナーによる投げ売りは見られておらず、リプライシング(再評価)は発生しにくい状況です。なお、GDP比で見た時の各経済主体別の負債割合は昨年末時点、連邦政府が約40%前後なのに対し家計は30%未満ですが、リーマンショック時の2007年末は家計が45%弱で最大でした。また昨年、家計の純資産も減少していますがこれは主に株価下落によるものでした。


【米国の家計のGDP比負債割合】

米国の家計のGDP比負債割合

※出典:FRED


また、企業についても、銀行の不良債権率や時価総額に対する負債の割合を見てみると、リーマンショック時に比べその数値は低いままです。下に時価総額に対する米企業の負債割合の推移(出典:FRED)を添付します。なお、1990年代以降、リーマンショックまで家計や金融機関の債務拡大は増加し続け、2000年代に入ってから金融機関がサブプライム層(プライム層よりも信用情報や収入の低い層を指す)にまで貸出先を広げたことから信用バブルが発生し金融機関と家計の債務がさらに大幅に増加しました。したがって、同じ轍を踏まないよう金融機関や企業、家計の負債の割合をよく注視する必要があるわけです。


【時価総額に対する米国企業の負債割合】


時価総額に対する米国企業の負債割合

※出典:FRED


では労働市場はいまどうなっているのでしょうか。

情報セクターは民間部門全体に占める雇用の割合が僅少ですが、大手IT企業が大量の人員削減を行ったとの報道ばかり取りざたされ、他セクターの労働市場の力強さは見過ごされています。1月の米国雇用統計では非農業部門の就業者数が51万7000人の増加と、エコノミストの予想を大幅に上回る数字でした。民間雇用全体の多くのセクターで雇用はいまもなお大きく伸びており、失業率も記録的な低水準のままです。コロナ禍において資源高は顕著でしたが、この物価上昇がタイムラグを経て賃金上昇にシフトされれば今の高水準の賃金上昇率は続き、さらにこれが消費を刺激し賃金上昇による賃金主導型のインフレが実現されると予想します

以上のように労働市場も、個人や企業のバランスシートも比較的健全な状態が続いており、レバレッジもリーマンショック時と比べると低い水準であることはご理解いただけたかと思います。利上げがインフレ抑制にどこまで効力があるのかにもよりますが、この住宅ローン金利の上昇によって弱まるのは厳密には需要ではなく買う事であり、需給バランスの実態を超えて米国の不動産市場がまたクラッシュするとは到底考えられません。インフレ抑制のためにFRBが利下げをすぐにすることは考えづらいため、引き続き実需は待機資金を残したまま購入を控えることが予想されるため、不動産市況がまた大きく上昇するとは考えられませんが、クラッシュは起こり得ないだろう、ということです。


むしろ、不動産市場の供給面は、コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱やインフレ等によりタイト化していたものが昨年後半以降の買い激減によりやや在庫水準を増やし改善しましたが、依然として特に南部では好調な経済発展や企業移転、人口流入により未だ供給が需要より少ないうえに、インフレが高どまっている状況下で新規住宅の建設も決して早いペースでは進まず、需給がタイトな状況は続いています。クラッシュが起こるかどうかという観点で確認したいくつかのポイントを通して、米国の住宅需給についても全体像をご理解いただけたかと思います。


今回はクラッシュは起こるのか、需要と供給のバランスは本当に緩んでいるのか、などについて解説しました。クラッシュは起こらず、横ばいに推移するか調整局面が続くのであれば、日本の投資家はどのような戦略を取るべきなのか、あるいはなぜいま日本投資家こそ買いのタイミングなのか、という点について次回、解説します。






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